脳ドックで認知症は早期発見できる? 同時に受けたいリスクがわかる検査

頭部MRI/MRAなど複数の検査を実施する脳ドックは、脳梗塞や脳腫瘍、脳動脈瘤など脳の疾患を調べるためにとても有用です。ただし、一般的な脳ドックで認知症のリスクを見つけることは難しいとされています。しかしMRIと同時に行うことで認知症のリスクを把握できたり、発症時期を推察することができる検査が登場し、予防策のひとつとして注目されています。 この記事では脳ドックと共に受診したい、認知症リスクを調べる検査について解説します。

記事監修
認知症検診LiST 編集部
認知症の不安や悩みを少しでも軽減できますように。先制医療による早期発見、早期からのケアを推進しています。みなさまの健康な毎日をサポートできる情報をお届けしてまいります。

認知症の種類|加齢とは異なる機能低下のサイン

認知症とは、脳の認知機能が低下し、日常生活全般に支障があらわれる状態のことをいいます。初期段階では単なる「もの忘れ」に見えるかもしれませんが、認知症の場合は家事や仕事など普段の行動にミスが増えたり、慣れているはずの道で迷ってしまうなど、『いつもできていたことが、できなくなる』という例に発展するケースがあります。
認知症にはいくつかの種類がありますので、以下に概要をまとめます。

*アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多いのがこちら。脳神経が変性し、脳の一部が萎縮していく過程でおきる認知症のことをいいます。もの忘れから発症し、ゆっくりと進行していくケースが多くみられます。

*血管性認知症
アルツハイマー型に次いで多いのが、脳梗塞や脳出血などが要因となる血管性認知症です。ダメージを受けた脳血管の部位によって症状が異なるため、まだら認知症(認知機能が部分的に保たれている)になることが特徴です。

*レビー小体型認知症
幻視(現実には見えないものが見える)、歩幅が小刻みになり転びやすくなる(パーキンソン症状)、手足の震えなどの症状があらわれます。

*前頭側頭型認知症(FTD)
スムーズに言葉が出てこなくなる、言い間違いが多くなる、感情の抑制がきかなくなるといった症状があらわれます。社会的ルールを守れなくなるというケースも見られます。

*若年性認知症
65 歳未満で発症する認知症のこと。日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業が2017 年度~2019 年度に実施した調査によれば、全国における若年性認知症者数は3.57 万人と推計されています。

加齢要因ではない「認知症のサイン」の例

もの忘れが加齢によるものか、認知症によるものかの区別は難しいものです。一例として、次のようなサインがあるかを参考にしてみてください。

  • 日常生活に支障をきたしている
    自分が経験した出来事を忘れる、大事な約束を忘れるなど
  • 本人が忘れっぽくなったことを自覚できない
    もの忘れに気付けなくなり、話の中でつじつまを合わせようとする
  • もの忘れの範囲が行動全体に及ぶ
    メニューを思い出せないのではなく、ごはんを食べたこと自体を忘れる

出典:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス「こころの病気を知る 認知症」、厚生労働省 認知症施策関連ガイドライン(手引き等)、取組事例「わが国の若年性認知症の有病率と有病者数」(令和2年7月27日地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター発表)

脳ドックで認知症は見つかる?

結論から言えば、頭部MRI/MRA検査による一般的な脳ドックだけでは認知症のリスクを見つけることは難しいでしょう。しかし、これらの画像診断検査で見つかる脳梗塞や脳出血、脳腫瘍などは認知症を引き起こす要因となりうる疾患です。

そこで頭部MRI/MRA検査などの脳ドックにプラスして、記憶を司るといわれる海馬の形状変化をとらえる検査や、認知機能の低下がないかを確認するスクリーニング検査を同時に受けることが、認知症リスクを早期に把握するために有用です。認知症の研究は年々進められており、近年ではAI(人工知能)を活用した先進的な検査も登場しています

リスクの早期発見こそ「認知症予防」になる

認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症の原因はまだ解明されておらず、現時点では有力な「アミロイドβ」という蛋白質の蓄積が脳の神経細胞を変性させるという説をもとに、治療法を開発すべく世界中で研究が重ねられています。
たとえばマスクやうがい・手洗いなど、風邪の予防のように認知症を防ぐことは難しいものです。私たちが今の段階でできることは、認知症になることを遅らせる、そして認知症になったとしても進行を緩やかにすること。つまり、リスクの早期発見とケアが最大の認知症予防策といえるでしょう。

早期発見のためのリスク検査については次の項でまとめますが、認知症の発症率低下や進行抑制効果があると報告されている日常生活のポイントを紹介します。研究報告のためあくまで参考ですが、どれも私たちの健康的な生活を支えてくれる内容ですので、心に留めておきたいですね。

  • 中年期・老年期の運動習慣
  • 聴力低下のケア
  • 高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣病をコントロール
  • 喫煙しない
  • 社会的孤立を避ける
  • 睡眠時無呼吸症候群など睡眠障害のケア
  • バランスの良い食事

出典:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス「認知症 早期段階からの対応の重要性

認知症リスクを知るための検査

頭部MRI/MRA検査とともに受診することで、現在の認知症リスクを把握したり、発症時期を推察することが可能な検査があります。オプションとして追加できる場合もありますし、医療機関によってはあらかじめ脳ドックコースに追加されている場合もあります。
すべての医療機関で受診できるとは限りませんので、以下を参考にして受診機関へ相談してみてください。

認知症リスクを調べる検査(画像検査、神経心理学検査など)

検査名検査の特徴
VSRADMRIの撮影画像から、海馬傍回など記憶にかかわる部位の萎縮度を調べる検査。基本的には認知症の恐れがある人が検査対象。
Brain SuiteMRIの撮影画像をAI解析し、海馬の体積を測定。事前に実施する認知機能テストとあわせて分析し、認知機能の低下リスクを評価する。テストは自宅などからオンラインで受講できる。
Brain Life ImagingMRIの撮影画像とAIにより海馬の体積を測定。現在の脳の状態を可視化するだけでなく、経年変化を推察したうえでレポート化して提供する。タブレットによる認知機能テストの結果をふまえて分析を深めることも可能。(対応可能な医療機関のみ)
MMSEミニメンタルステート検査。臨床や研究で国際的に広く用いられている。30点満点で23点以下が認知症の疑い(感度81%、特異度89%)、27点以下は軽度認知障害(MCI)が疑われる(感度45-60%、特異度65-90%)
HDS-R改訂長谷川式簡易知能評価スケール。日本では広く用いられている認知機能テスト。年齢/見当識/計算/数字の逆唱/言語流暢性など9項目からなり、30点満点で20点以下は認知症が疑われる。(感度93%、特異度86%)
MCIスクリーニング認知症の前段階(軽度認知障害:MCI)のリスクを判定するスクリーニング検査。血液中のアミロイドβを排除する機能を持つ3種類の蛋白質を調べる。
その他、
認知機能テスト
15〜30分ほどで行う紙またはタブレット形式でのテスト。CQ test、ADAS-Jcog、MoCA-J、ACE-R、Cognistatなど。
※検査概要や数値は当記事作成時点の調査内容です。研究成果などにより変わることがあります。

出典:日本神経学会 認知症疾患診療ガイドライン2017「第2章  症候,評価尺度,診断,検査」、日本老年医学会「認知機能の評価法と認知症の診断

まとめ|検査を追加して認知症リスクの早期発見へ

一般的な脳ドックに含まれる頭部MRI/MRA検査では、脳梗塞や脳腫瘍、脳動脈瘤などの脳血管疾患を調べることはできますが、認知症のリスクを見つけることは難しいものです。しかし近年ではAI(人工知能)の活用により、認知症の発症時期を推察することができる検査などが登場しています。
アルツハイマー型認知症の原因はまだ解明しきれていないのが現状ですが、日々研究が重ねられています。早期発見こそ最大の予防策と考え、先進的な検査を活用することも選択肢のひとつととらえてはいかがでしょうか。

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